独自の戦慄界を作る——10のホラー・ジャンル、タロッカ、Haunted Bastions
『Ravenloft: The Horrors Within』は、既存の戦慄界を紹介するだけでなく、DMが独自の暗黒卿と戦慄界を作るための手順を収録しています。10種類のホラー・ジャンル、タロッカ・カードによる冒険作成、Haunted Bastions、41体のモンスターと10人の領域住民を組み合わせて、短編から長期キャンペーンまで組み立てられます。
先に結論
独自の戦慄界は、地図や怪物からではなく、暗黒卿の欲望と罪から作ります。暗黒卿が何を望み、何をしても手に入れられず、その失敗が領域へどう現れるのかを決めます。そのうえでホラー・ジャンル、住民、事件、モンスターを加えると、舞台と物語が同じ恐怖を指すようになります。
本書のルールはSRD 5.2.1には収録されていません。この記事では公式紹介で公開されている作成手順を中心に、数値やルール本文を転載せず、DMがどの資料を何に使うのかを整理します。
DM向け資料の全体像
| 資料 | 主な用途 |
|---|---|
| Ravenloft Adventures | 戦慄界、暗黒卿、霧、敵と味方をキャンペーンで運用する |
| Horror Atmosphere | 情報、風景、音、予兆を使って恐怖の雰囲気を作る |
| Horror Roleplaying | 恐怖に直面する人物を演じ、選択と葛藤を物語にする |
| Haunted Bastions | 呪われた拠点を獲得し、失い、取り戻す物語を作る |
| Creating a Darklord | 領域の中心となる悪役を作る |
| Creating a Domain | 暗黒卿の罪と欲望を反映した戦慄界を作る |
| Genres of Horror | 10種類のホラーから、事件、場所、敵の方向性を選ぶ |
| Tarokka Deck | 占い、予兆、遭遇、冒険、戦慄界の要素を決める |
| Denizens of the Mists | 41体のモンスターと10人の領域住民を配置する |
独立した小規模ルールを集めた章というより、暗黒卿から始めて、領域、冒険、敵、拠点へ広げるための一連の設計資料です。
暗黒卿から始める
公式の作成例では、戦慄界を作る最初の手掛かりとして暗黒卿を置きます。領域は暗黒卿を閉じ込める牢獄であり、その風景や社会は暗黒卿の内面を反映するためです。
公式紹介では、暗黒卿を次の4項目で整理しています。
- 暗黒卿に合うホラー・ジャンルを選ぶ
- 暗黒卿になる前の経歴を決める
- 破滅を招いた欠点や執着を決める
- 現在何をしており、キャラクターが何を体験するかを決める
そのうえで、欲しいものへ近づくたび、なぜ失敗するのかを考えます。強い悪役を作るだけでは不十分です。暗黒卿には、破壊を重ねてでも手に入れたい具体的な望みがあり、あと一歩のところで永遠に届かない構造が必要です。
ストラードは愛そのものではなく、特定の魂を自分の所有物にしようとします。しかし、どれほど権力を使っても、その魂は失われます。Viktra Mordenheimは死者を蘇らせることに成功しても、望んだ関係を取り戻せません。欲望と失敗が繰り返されることで、暗黒卿の物語が領域全体の恐怖になります。
暗黒卿を領域へ広げる
暗黒卿が決まったら、その人物の罪と恐れを場所へ変換します。
| 暗黒卿の要素 | 領域へ反映する例 |
|---|---|
| 欲望 | 住民も同じものを求めて争う |
| 犯した罪 | 過去の事件が祭り、法律、災害として繰り返される |
| 最も恐れること | 領域の禁忌、怪物、天候として現れる |
| 自分につく嘘 | 社会全体が同じ嘘を常識として受け入れる |
| 手に入らないもの | 目の前にあるのに、暗黒卿だけが到達できない |
| 罰 | 領域を支配するほど、望みから遠ざかる |
建物や地名をすべて決める前に、領域で繰り返される矛盾をひとつ用意します。Dementlieuでは、存在しない郊外が都市へ物資を供給していることになっており、住民はその説明を疑いません。こうした悪夢の論理が、領域を通常の国や町と区別します。
10種類のホラー・ジャンル
第4章では、次の10ジャンルを扱います。ジャンルは作品を一つに分類するためではなく、恐怖の焦点と冒険の作り方を決めるための道具です。複数を混ぜることもできます。
| ジャンル | 恐怖の焦点 | 冒険にしやすい題材 |
|---|---|---|
| Body Horror | 肉体が変形し、自分のものではなくなる | 実験、感染、寄生、望まない変身 |
| Cosmic Horror | 人間には理解できない存在と宇宙の真実 | 邪教、異界、夢、現実の崩壊 |
| Dark Fantasy | 魔法と怪物が日常を蝕む暗い世界 | 呪われた王国、腐敗した英雄、終わらない戦争 |
| Folk Horror | 閉鎖的な共同体と古い慣習 | 村の祭り、禁忌、供物、森の信仰 |
| Ghost Stories | 過去の罪や未練が死者として戻る | 幽霊屋敷、失踪、家族の秘密、鎮魂 |
| Gothic Horror | 欲望と破滅が城や家系へ刻まれる | ヴァンパイア、古城、没落貴族、禁断の恋 |
| Disaster Horror | 共同体を圧倒する災害から生き延びる | 包囲、疫病、怪物の群れ、資源不足 |
| Occult Detective Stories | 隠された怪異を証拠から追う | 連続事件、秘密結社、呪い、儀式の阻止 |
| Psychological Horror | 記憶、知覚、信頼が崩れる | 幻覚、偽の記憶、孤立、疑心暗鬼 |
| Slasher Horror | 圧倒的な殺人者に追われる | 逃走、閉鎖空間、順番に消える仲間、生存 |
同じ暗黒卿でも、選ぶジャンルによって冒険の形は変わります。復讐する死者をGhost Storiesとして扱えば過去を調べて鎮める物語になり、Slasher Horrorとして扱えば追跡をかわして生き残る物語になります。
ジャンルを冒険へ変える
ホラー・ジャンルを決めたら、次の3つを用意します。
ジャンルを示す場所
最初に見える風景で、どのような恐怖を扱うのかを示します。荒廃した研究所、誰も外へ出ない村、毎晩違う場所に現れる廊下など、事件が起こる前から異常を感じられる場所を置きます。
ジャンルを示す事件
キャラクターが放置できない問題を一つ作ります。住民が消える、墓が内側から破られる、町を守る食料が尽きるなど、調査や行動のきっかけです。
ジャンルを示す代償
成功しても元通りにはならないものを決めます。助けられる人数に限りがある、真相を知ることで誰かとの関係が壊れる、怪異を止めるには別の怪異と取引する、といった選択がホラーの余韻になります。
公式の作成手順には、悪役の動機、冒険の導入、怪異の配置などを決める表も含まれています。すべてを最初から確定せず、プレイヤーが関心を示した要素を後から詳しくする余地を残す使い方が勧められています。
タロッカ・カードで遭遇を作る
タロッカ・カードは占いの小道具だけでなく、遭遇や冒険の構造を決める道具として使えます。公式紹介では、5枚を十字形に並べ、次の役割を持たせる例が公開されています。
| 位置 | 決める内容 |
|---|---|
| Focus | 遭遇の中心。戦闘、探索、社会的遭遇のどれかと、主題 |
| Past | 事件が起きた原因、過去の出来事、動機 |
| Opposition | 敵対者、障害、対立する味方 |
| Future | 成功や失敗によって起きる結果 |
| Aid | 協力者、秘密、魔法のアイテム、事前に必要な準備 |
カードの意味をそのまま答えにする必要はありません。DMがあらかじめ並びを決める、無作為に引く、プレイヤーの解釈を採用するといった使い方ができます。
たとえばFocusが「大きな損失」、Pastが「交易」、Oppositionが「自然の反乱」、Futureが「共同体への救援」、Aidが「知識を持つ人物」を示したなら、交易路を失った村を救うため、森の勢力と対立しながら遺跡の物資を回収する冒険へ組み立てられます。
本書とは別に、54枚の物理カードとデジタル版を含む『Ravenloft: The Horrors Within - Tarokka Deck』も販売されています。
Haunted Bastions
Haunted Bastionsは、2024年版『ダンジョン・マスターズ・ガイド』のバスチオンを、戦慄界の物語へ組み込むための資料です。安全な本拠地を得るだけではなく、呪われた場所を受け継ぐ、怪異に奪われる、原因を調べて取り戻すといった展開に使います。
Haunted Bastionには、長期キャンペーンの拠点として次の役割を持たせられます。
- 霧の中で唯一休息できる場所
- 死者や怪異に関する情報が蓄積する場所
- 暗黒卿に対抗する人々が集まる場所
- 過去の所有者の罪が少しずつ明らかになる場所
- 住民や施設を守ること自体が冒険になる場所
- 失った後、奪還がキャンペーンの目的になる場所
拠点を完全に安全にしないことが要点です。ただし、毎回休息を妨害するとバスチオンとして機能しなくなるため、普段の安定と、物語上の危機を分けて扱います。
41体のモンスターと10人の領域住民を配置する
第5章には、戦慄界を満たす41体のモンスターと10人の領域住民が収録されています。Dullahan、Loup Garou、Carrionetteなどのホラー・クリーチャーに加え、Elder Thing、Mi-Go、Nightgaunt、Shoggothなど、宇宙的恐怖に向く存在も含まれます。
モンスターは強さだけで選ばず、ジャンルに合わせて役割を決めます。
| 役割 | 使い方 |
|---|---|
| 予兆 | 足跡、犠牲者、音だけを先に見せる |
| 追跡者 | 直接倒すより逃げることを目的にする |
| 領域の住民 | 怪物だが、情報や取引の相手にもなる |
| 暗黒卿の手先 | 暗黒卿の意志や罰を現場へ届ける |
| 環境の結果 | 汚染、実験、呪いが生んだ存在として配置する |
| 暗黒卿の対立者 | パーティと目的の一部だけが一致する |
公式の作成記事では、既存モンスターの外見や由来を舞台に合わせて変更する方法も勧めています。たとえば既存のデータ・ブロックを、魔術師の失敗から生まれた縫合怪物として描写すれば、数値を作り直さずBody Horrorの敵にできます。
セッションを始めるまでの順番
- セッション0で扱う恐怖と避ける内容を確認する
- 主要なホラー・ジャンルを1つ選ぶ
- 暗黒卿の欲望、罪、失敗を決める
- 暗黒卿を反映した領域の矛盾を決める
- 最初の事件と、放置した場合の結果を決める
- ジャンルに合うモンスターとNPCを配置する
- 必要ならタロッカで遭遇や予兆を作る
- 長期化するならHaunted Bastionを拠点として加える
ホラーでは、参加者が驚くことと、参加者が同意していない題材を突然出すことは別です。公式記事でも、セッション0や同様の話し合いによって、扱いたい内容、避けたい内容、明確な限界を確認するよう勧めています。
参考資料
- D&D Beyond: Ravenloft: The Horrors Within
- D&D Beyond: How to Build Your Own Domain of Dread
- D&D Beyond: Deadly Destiny—The Tarokka Deck as an Encounter Creation Tool
- D&D Beyond: Everything You Need to Know About Ravenloft: The Horrors Within
- D&D Beyond: Welcome to Ravenloft: An Adventurer’s Guide to the Domains of Dread
- D&D Beyond: A Feat Most Foul—A Look at Dark Gifts from Ravenloft: Horrors Within